監督/脚本 高橋玄

1965年、東京都新宿区生まれ。19歳で東映東京撮影所に入り、文京区CATV契約監督として演出家のキャリアをスタート。1991年『心臓抜き』で若干26歳にして劇場映画監督デビュー。1997年、香港で国際的な映画製作を学び、以降、独自のスタンスで良質の映画を撮り続ける。代表作に『CHARON(カロン)』『ポチの告白』『GOTH』など。 20代から各国の映画界で、映画芸術と映画ビジネスの両面を学び、現在、東京とニューヨークを拠点としている。2004年の『CHARON(カロン)』で、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ファンタランド大賞受賞、2009年公開の『ポチの告白』は日本映画館大賞特別賞、日本映画シナリオ年鑑収蔵の他、ニューヨーク日本映画祭で観客投票2位、イギリスでDVDがソールドアウト、『GOTH』も北米、英国、アジア各国などに配給され国際的に高い評価を得た。本作『ゼウスの法廷』で劇場映画監督12作目となる。

撮影 石倉隆二

『風のかたち』(文化庁映画賞文化記録映画優秀賞受賞)、『大丈夫。-小児科医・細谷亮太のコトバ-』(2011年キネマ旬報ベストテン文化映画第1位)等、多数のドキュメンタリー映画を撮影。
劇映画では高橋玄監督とのコンビによる『嵐の季節』『突破者太陽傅』『ポチの告白』等。

音楽 村上純

1980年、千葉県出身。幼少時からクラッシクヴァイオリンを学び、学生時代にはロックバンドでボーカル、ギター、ベースを担当。またコンピューターミュージックを学ぶ。専門学校在学中に高橋玄監督作品で映画オリジナルスコアを手がけ『CHARON(カロン)』、『ポチの告白』、『GOTH』の作曲、音楽編集を担当。他にTVアニメ『Steins;Gate』(佐藤卓哉監督)、『モノクロームファイター』(紅優監督)等、多数。近年ではアニメ・ゲーム音楽のプロデュースも手がける。

セット美術 郡司英雄

映画『ワンダフルライフ』(是枝裕和監督/毎日映画賞美術賞)、『バトルロワイヤル2』(深作欣二・健太監督)セットデザイン、『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』(蔵方政俊監督)等の他、サザンオールスターズ、桑田佳祐、GLAY、T.M.Revolutionのミュージック・ビデオにも参加。

セット美術 松尾文子

『リンダ リンダ リンダ』(山下敦弘監督)、『TOKYO!〈メルド〉』(レオス・カラックス監督)、『たみおのしあわせ』(岩松了監督)、『転々』『インスタント沼』(三木聡監督)、『酔いがさめたら、うちに帰ろう』(東陽一監督)、『奇跡』『そして父になる』(是枝裕和監督)等、その他多数の作品に参加。

美術装飾 寺尾淳

『ハンサム★スーツ』(英勉監督)、『つむじ風食堂の夜』(篠原哲雄監督)、『ツナグ』(平川雄一朗監督)、『南極料理人』(沖田修一監督)、『人類資金』(阪本順治監督)等。

編集 太田義則

1961年、神奈川県横浜市出身。横浜放送映画専門学校(現・日本映画大学)卒業。1981年、編集・菅野順吉氏の助手を経て、翌年からフリーランス。以降、北野武監督作品のほぼすべての編集を手がけ、代表作に『Kids Return キッズ・リターン』、『HANA-BI』、『座頭市』、『アウトレイジ ビヨンド』。最新作に『ばしゃ馬さんとビッグマウス』(吉田恵輔監督)。

録音 岩丸恒

1968年、東京出身。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業後、フリーランスの録音助手を経て、福島音響へ入社。現在Cinema Sound Works株式会社所属。 映画『犬と歩けば チロリとタムラ』(篠崎誠監督)、『神の左手 悪魔の右手』 (金子修介監督)、『GOTH』(高橋玄監督)、『ロボ芸者』(井口昇監督)、『俺俺』(三木聡監督)、『おしん』(冨樫森監督)等。

照明 小川満

1956年、北海道出身。千代田テレビ電子学校卒業後、テレビドラマ『俺たちの朝』、『太陽にほえろ!』等の照明助手を経て、日活撮影所で照明技師・矢部一男に師事。1996年『LUNATIC』(サトウトシキ監督)で照明技師デビュー。主な作品に『すてごろ』(光石富士朗監督)、『紅薔薇夫人』(藤原健一監督)等。高橋監督作では『突破者太陽傅』(大映)、『CHARON(カロン)』『ポチの告白』等、本作で7本目の担当となる。

衣装 沢柳陽子

1996年、有限会社おかもと技粧入社。映画代表作に『銀の男』(高橋玄監督)、『ミラーを拭く男』(梶田征則監督)、『神童』(萩生田宏治監督)、『ひゃくはち』(森義隆監督)、『怪談レストラン』(落合正幸監督)等。

助監督 中西正茂

1967年、和歌山県出身 。1990年からテレビ、映画の助監督として活動。『喧嘩の極意』『レディ・プラスティック』『CHARON(カロン)』『ポチの告白』等、高橋玄監督作品でチーフ助監督を務める。他に『Life〜天国で君に逢えたら〜』『僕の初恋を君に捧ぐ』『潔く柔く』(新城毅彦監督)、『阪急電車』『県庁おもてなし課』(三宅喜重監督)、『僕と妻の1778の物語』(星護監督)、『BABEL(バベル)』(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)、『新宿インシデント』(イー・トンシン監督)等。

『ゼウスの法廷』高橋玄監督Q&A(聞き手:増田俊樹)

元婚約者同士が被告と裁判官というアイディアはどこから生まれたのか?

最初に「司法と民意の対決」を娯楽作として描くには、どんな物語が良いかを考えた。 それで民意の象徴として女性を主人公にして、権力の立場を男性にする構図を着想しました。現実でも権力装置というのは、いまだに男系社会ですからね。ところが、男社会がどれだけ威張っても、女性が人間を産むわけですから、いかなる権力者も「子供」という事になります。そういう視点で、司法権と向かい合う民意というものを男女関係に置換してみたわけです。

現実起こり得る裁判ですか?

法律では裁判官は「親族または元親族であった者」に関わる事件を扱えないようになっている。これを「回避」と言います。だけど、法律で親族というときは、婚姻や養子縁組という法制度を根拠にしてのことですから、「元婚約者」という場合には判断の余地が生じる。婚約者とは何かを明確に規定する法令というものは存在しませんからね。これはいいなと思った。なぜなら、裁判官は自分の判断を憲法で保障されているわけですから、裁判所の権威や体面、法曹界での慣習で回避すべきだとされる事件でも、違法でなければ可能な裁判になるからです。 つまり、この核となったアイディア自体が、日本の司法制度や裁判官の矛盾を指摘できるんじゃないかと思ったんです。裁判官は憲法で独任を保証されているのに、司法の現実では、多くの裁判官が「ヒラメ判事(上=上司ばかりを見ている裁判官)」と言われて、有形無形に最高裁の意向で動いていますからね。

撮影について

最初は予算的なこともあってデジタル撮影で入ろうかと思ってましたが、追加の予算が得られたこともあって35mmネガ・フィルム撮影を決めました。私は東映撮影所から映画人としてのキャリアを始めたので、やはり基本はフィルムなんですね。撮影は2011年11月から。追加撮影を含めると2012年4月までかかった。日数で45日だったかな。ところが、この映画をやっている1年半の間に、ネガ編集をするスタッフが編集室を閉鎖していた。他のプロダクションも同様に、ネガ撮影でも仕上げはデジタルというのが主流になって、フィルム編集のスタッフも仕事が激減して業界状況が急激に変わったんですよ。だからデジタルで仕上げたんですが、撮影素材はネガですから粒状感などで良い質感は出せています。

編集について

編集には約1年かかってます。最初は2時間40分以上ありましたからね。裁判はリアルに見せたいけど、現実の裁判の手続きをそのままやったら、長過ぎだし退屈だし、とても映画にならない。それで敢えて2ヶ月ごとに時間を空けて再編集を繰り返した。 これまでほとんど自分でやってきましたが、今回は初めて全面的に太田義則さんにお願いした。太田さんは北野武監督のほぼ全作を編集している人ですね。だからカッティングの切れというのか、凄いんですよ。私が「ここは直して」と指示すると、そのときは「はい」とやってくれるんだけど、後で通して観たら太田さんは自分の編集に戻したりしている。ところが、それに文句のつけようがないんだよ(笑)。作業中もまったく何も言わない物静かな人なんですけど、つないだ画で黙らせてしまう実力。彼のおかげで法廷劇がエキサイティングになったと思います。

裁判所の内部がセットなどで再現されているが、どのようにリサーチしたのか?

映画界では古くからそういう美術面での基礎的なデータはあるんですよ。今回は後半1時間がほとんど法廷劇だからセットじゃないと不便です。前作『ポチの告白』では予算がなくて、大学法学部の模擬法廷で裁判シーンを撮ったんだけど、壁は外せないし使用制限はいろいろあるし、狙えるアングルが限られてしまう。長時間の法廷シーンはセットじゃないと退屈になっちゃいますからね。それで、昔から知っている美術監督の磯やん(磯見俊裕『誰も知らない』『血と骨』等)と東映撮影所に協力してもらって東京地裁の小法廷をほぼ忠実に再現した。法律監修の弁護士が現場に来て感心していたくらい良く出来ています。今回、本物を撮影したのは裁判所合同庁舎と和光市にある司法研修所の外観。裁判官の官舎については、私の子供の同級生が裁判官の家でね「ああ、こういうところに住んでいるんだな」と見ていましたから。似たところを探して、宇都宮に撮影許可の出る公務員住宅を見つけた。裁判官用じゃないですけどね。

ラスト1分の衝撃的なシーンの意図は?

あれは私から裁判官へのメッセージですかね。法律上は「判決を出せば終わり」だろうけど、それを国民が受け入れなければ本当は一件落着じゃないんだと。結末は劇場で観て下さい(笑)。

映画に込めたメッセージ、観客の皆さんに一言

この映画は日本の司法問題を背景にはしていますけれども、観るのに面倒くさい映画ではない。ラブストーリーだしね。私たちは「司法制度」という言葉に騙されがちだけど、制度ったって人間が作って運営しているんだから、漠然とした制度問題というものはないはずだと私は思っています。
つまり、今回の映画で、私は裁判官を人間として描いたつもりなんだ。いかめしい建物の中で、威圧感のある黒い法服なんてまとっていると、いかにも自分たちは「ゼウス」だと錯覚するようになる。全員がそういう判事じゃないと思うけど、実は逆に弱い存在ではないのかと。それを見守って、間違いを教えて成長させるのは女性なんだという映画ですからね。そういう意味でも、この映画は女性映画だと言えるんじゃないですかね。
恋人同士、婚約者、夫婦のお客さんに観て頂いて「自分たちがあの立場ならどうするか」なんて話してもらえたら光栄ですね。